出会い - Keito Side - : page 01

  Andy's BARの扉をそっと開けた。
  初めて訪れる店に入る前はいつだって少しの緊張が伴う。
  古い一枚板の扉は見かけよりずっと軽くて、簡単に開いた事に少し拍子抜けする。
  カランと乾いたベルの音が響いた。
「いらっしゃいませ」
  少し低めの女の声がした。
  女?男くさいバーだって聞いてたけど……
  カウンターの中には長身の男と、小柄な女が並んでいた。
「こんばんは」
  俺の挨拶に二人が少しの戸惑いを見せたが、にこやかに返してくれた。
「はじめまして、かな」
  長身の男の言葉に、先ほどの二人の戸惑いの理由に合点がつく。
  この手の個人店は常連客がほとんどで、一見が来る事は少ないからだろう。
「あ、はい。僕、azzurroで働いてまして。小林さんからこちらを紹介されて……」
  俺の言葉に納得がいったのか、長身の男が頷く。
「azzurro?小林さん?」
  女の方が少し声高に聞いてきた。
「あ、はい」
「小林さんって、小林新太郎さん?金髪の?」
  女の言葉に、今度は俺が戸惑う。
「そうだけど……、金髪?」
  女の説明によれば、数年前に彼女はazzurroへよく行ってたらしく、今の俺の上司である小林新太郎はまだ入ったばかりのアルバイトで、その当時は金髪 の長髪でかなり異色の存在だったらしい。
  現在、その小林はazzurroの店長で、髪型もすっきりと短髪の黒髪であり、俺自身、今の小林しか知らなかったから、かなりその情報に驚いた。
「もうしばらく行ってなかったから……、小林さんお元気ですか?」
「金髪ではないけどね。今は店長ですよ」
「そうなんですか。今度お邪魔していいですか?」
 その言葉に頷くと、彼女の顔に笑顔が広がった。
 花が開くようってこういう表情のことをいうのかな、なんてふと思う。
「ごめん、まだ注文も聞いてなかったね。何にしますか?」
 俺自身もその言葉で、まだ頼んでなかったな、と気がつく。
「ですね。じゃあ……」
 そう言いながら、バックカウンターを眺める。
 小林さんの説明どおり、ラムの種類が多い。
「クレマンをロックでお願いします」
「ラム、好き?」
 俺の注文を受けて、男の方が訊ねてきた。
「はい、けっこう甘いお酒の方が好きですね。でも、まだクレマンは飲んだことなくて。うちの店にも置いてませんし。」
「そうか。あ、まだ名前聞いてなかったね。俺は松田、こっちは清瀬」
 呼ばれて、女の方がニコっと笑った。
 3つ4つくらい年下かな。まだ10代だろう。なんか表情にいちいち振り仮名つけたくなるような子だな。
「僕は相良です。相良慶人。けいとは慶祝の慶に人」
「相良くん、ね。いくつなの?清瀬と同じくらいだとは思うんだけど」
 松田の言葉に、思わず首を振る。
「僕の方がもっと上だと思いますよ。今度23です」
 俺の言葉に清瀬がふっと笑う。
「私も23ですよ」
 つい顔を凝視してしまった。
「3、4こ下だと思ってた……」
 清瀬が少し脹れたような表情を見せた。
「それじゃまだ10代じゃないですか。数年前にazzurroに行ってたらおかしいでしょう」
 あ。確かにそうだ。
 目の大きさの割りに、鼻と口が小さいせいか、若く見えるというのではなく、幼く見える。
「いや、失礼しました……」
 謝罪の言葉に清瀬が可笑しそうに笑う。
「相良くんが謝ることじゃないよ。こいつ、客にも未成年に思われてたりするから」
 松田が苦笑した。
 俺の妹の方が年上に見えるって言ったら、また脹れるのかなとふと考える。
 もっとも妹はまだ高校生だけど。
「清瀬、今日はもういいか」
「ですね」
 二人はそう頷きあい、おもむろにショットグラスを二つ準備した。
「お前、今日は何にする?」
「んー。マツサレムにしようかな」
 よし、と返事するとそのマツサレムを一つのショットグラスに注ぐ。続けてもう一つのほうには俺が頼んだのと同じくクレマンを注いだ。
「じゃ、相良君。今日はもう君の貸切ということで。乾杯」
 松田のその言葉に清瀬がグラスを上げる。俺もつられてグラスを持った。
「かんぱ−い」
 清瀬がニコニコしながらグラスを松田と俺のにあわせる。
 おいおい、こんな子供顔しながら、ラムストレートかよ。
 しかも、やたらとうまそうに飲むし。
 俺は歓迎されたのか、その後3人でかなり遅い時間まで飲んだ。
 途中で会計したから、そろそろ帰ろうと思ったのだが、いつの間にかグラスに酒が注ぎ足されてる。
 けっこう酒は飲むほうだが、この二人の飲みっぷりには呆れた。
 最初の3杯目まではストレートで飲んでたが、その後はひたすらロックで飲み、トータルで10杯は飲んでたはずだ。
 にもかかわらず、まったく顔に出てない。
 いや、松田の方が少し酔ってたか。
 清瀬は……、酒豪ってこういうやつの事をいうのか?

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