日曜日の営業は普段より早く、1時に閉店のため、0時にラストオーダーを取る。その時
に
ノーゲストであれば、そのまま店を閉めている。
23時半にはノーゲストの状態だったため、閉店作業を着々と進めていた。
このままだと0時過ぎには上がれそうだな……
「じゃ、あとでね」そう言って店をでた清瀬の姿が思い浮かぶ。
エルヒターノか。しばらく行ってなかったしな。結城さんの誕生日だって言ってたし……行く言い訳を自分にしている。
今から行っても、もう清瀬は帰ったあとかもしれない。
まだここを出て1時間も経っていないのだから、きっと居るはずだろうが、本当に来やがったとか思われるかもしれない。
社交辞令的に次に行く店に誘ったのかもしれない。
あー、なんか面倒くせえ。やっぱり行くのは止めておくか……
ほぼ片付けが完了したとき、ちょうど0時で、そのまま店を閉めた。
「相良、結城によろしくな」
後ろから小林にそう言われ、振り返る。
「え?」
「行くんだろ?紗月ちゃん、あとでねーって言ってたじゃん」
「いや、あれはそういうんじゃないじゃ……」
「お前、まさか行かない気?」
小林が嫌なものを見るような目で俺を見てきた。
「向こうだって、軽く誘ったんじゃないですか?」
「いや、そうかもしれないけどさ、結城の誕生日って聞いてるんだし。これ持ってってくれたら俺助かるんだけど」
そう言って、手にしてたシャンパンの瓶を見せる。
「そういうことなら、持ってきますよ」
これで正当な理由ができた、と思った。
清瀬に誘われたから行くんじゃなく、小林にシャンパンを持っていくよう言われたから行くんだと。
「じゃ、よろしくな」
俺にシャンパンを手渡すと、小林は更衣室へと向かった。
俺もさっさと着替えて行くか。
EL GITANOと書かれた磨りガラスの向こうがぼんやりと明るい。それほど賑やかな感じもしないから、まだ混み合ってるわけではなさそうだ。
清瀬がいたら……小林にシャンパン持っていくように言われてって言えばいいか。いなかったら……そのほうが気が楽だ。結城さんにそのまま清瀬から聞い
てっ
ても言えるし、土産もあるし。
初めて来る店でもないのに、緊張しながらドアを開ける。
カウンターしかない小さな店だ。ドアを開ければ、すぐにそこにいるすべての人を把握できる。
一番奥の席に、清瀬がいた。他に客はいない。
「あ、早かったねー」
ニコニコしながら、こちらに手を振っている。その姿にちょっとホッとした。小さく息をついてから、清瀬の方へ向かう。
「相良か。久しぶりだな」
すでに少し酔ってるのか、結城の頬がほんのり赤い。
「ご無沙汰してました。これ、小林さんから」
預っていたシャンパンを渡す。
「おっ、ヴーヴ・クリコ。俺好きなんだよこれ」
冷えてるのを確認すると早速開けている姿を見て、清瀬と顔を見合わせた。
席を空けて座るのも変かと思い、清瀬のとなりの席に座った。結城はフルートグラスを3つ用意すると、シャンパンを注ぎ始めてる。
「じゃあ、俺の誕生日にかんぱーい!」
ご機嫌な結城さんのテンションに苦笑しつつも、俺達もグラスを上げた。
結城さんは見た目はかなり強面だが、とてもユニークな人だ。スキンヘッドに髭面、上半身はタトゥーだらけ。しかも体格もいい。格闘家のように見えるほど
だ
が、その実優しい。
厳しいこともたくさん言うが、その根っこの優しさを皆しってるから、何か相談事があったりすると、結城さんに会いに来るという人は多い。
「いや、しかしお前たちが並んでるってのも不思議な感じだな」
既に二杯目も半分になったグラスを煽りながら、結城が俺たちを見比べる。
「いっつも私ひとりで来てましたからねー」
「俺もひとりか、小林さんとだな」
「うんうん、お父さんは嬉しいよ。君たちがこうやって交流を広げてる姿を見られて」
「なんかその言い方、お友達が全然いないみたいに聞こえます」
清瀬が拗ねたような顔をする。
「……違うか?」
結城さん、それはひどいよ。俺は苦笑しかできない。
「違うくないけど、言わなくてもいいことってある」
清瀬の反応に、結城も苦笑する。
「だな。悪かった。お前はイイコなのに、なんで友達できないんだろうな」
結局、それもひどいと思うんだけど……
「できないんじゃないんですー。やたらと作らないだけなんですー」
清瀬の言葉が気になった。
「それに、イイコだから。だから、仲間はずれとかやめなーって言って、自分が仲間はずれにされちゃったりするんですー」
言ってることはイタイが、本人の表情はいたって朗らかだ。
「こんな仕事してたら、昼間の人とは交流もなくなるのは、結城さんだって知ってるでしょ」
ふふっと笑いながら、そう話してる清瀬から目が離せなかった。
「そりゃそうだけどな。まあでも、こうやって誰かと飲むのもいいんじゃねえか」
その言葉には俺が頷くと清瀬も「うんっ」と力強く頷く。その反応に嬉しく思ってる俺がいた。