「おはよ。目さめた?」
なんだかよくわからない唸り声を発して、まだ眠そうな慶人くんは起き上がろうとしたものの、また布団へ倒れこんだ。
まだ昨日のお酒が残っているのだろう。昨日はけっこう飲んだ。
「ね、もう15時だよ。」
「……え!?」
勢いよく起き上がった彼の顔を見てつい笑ってしまう。
「目、二重になってる。」
「んー。」
しかめっ面をしながら鏡を覗き込み、浮腫んでるとため息をつく後姿すら愛しい。
ビョーキね、私。
「しかもけっこう雪積もってる。」
「えー?寒いの嫌なんですけど。」
「知ってます。カフェオレでも飲む?」
「甘いのがいい。」
はいはいと答えながら、その辺にある服に袖を通し、ベッドから抜け出る。
一緒にいる日はこんな寒い日だって楽しい。
私も人並みにこんな感情あったのね。
ミルクパンに牛乳を入れて温めながら、お湯を沸かす。
部屋はまだ暖まっていないけど、何気ないこんなことが嬉しくて、寒さも気にならない。
「昨日帰ってきたの何時頃だった?」
後ろからの声がちょっと鼻声でまだ眠そうだ。
「rosso出たのが9時くらいだから、10時前だと思う。」
「それからまたこれ飲んだのか。」
テーブルにまだ片していない缶ビールが4本。しかも500ml。
「ちょっと飲みすぎたね。」
「ちょっと?」
ちょっとね、とカフェオレを渡す。
子供のようにふうっと湯気を飛ばす慶人くんにスプーンを差し出す。
「知ってるねえ。」
そういいながらスプーンでカフェオレをすくって飲み始める。
「あっ!」
隣に椅子を並べて座ろうとした私は突然バランスを崩して彼の膝の上に座りこんだ。
おなかに回された手がふにふにと肉を揉もうとする。
「危ないでしょ。」
倒しそうになったマグカップをテーブルの奥へ押しやり軽く睨みつけた。
そんな私の様子にかまうこともなく慶人くんの舌が私の唇を舐めた。
それだけで文句が言えなくなる。
すべてお見通しというように唇が押し付けられる。
カフェオレの香りが甘い。
お腹を触っていた手が胸へと移動する。
下から胸を持ち上げるようにやさしく揉みあげられるとため息にも似た吐息が漏れる。
それが合図かのように慶人くんが私の唇を甘噛みした。
割り入ってきた舌は私の口の中を自在に探り、腰の辺りをくすぐるように撫でながらもう一方の手は乳首だけを何度も転がすように遊び始める。
お腹の奥で何かが縮んでしまうような気分になって、彼の首に両手を回した。
「もう濡れてるんでしょ。」
ちょっと意地悪そうに言われ、目を逸らすと、乳首で遊んでいた手が、お腹を通り、太ももの間に差し入れられる。
「んっ……」
「触って欲しい?」
小さく頷くと、横に首を振られた。
「触ってください、でしょう。」
いっつもこう。
言わせられる。
自称昭和の男、親しい友人たちにでさえ『最強ドS』と言われてる慶人くんはこういうのを言わせたいらしい。
でも、さすがに面と向かって言うの恥ずかしいから、首元に顔を埋めてちっちゃな声で伝えてみる。
「だめー。」
そう言うなり顔を上げさせられた。
「はい、もう一回。」
太ももを撫でてる手が突然乳首を摘む。
「んんっ、……さわって、ください。」
恥ずかしさで一気に顔に血が上るのが自分でもわかる。
よし、と満足げに頷くと頬に口づけ、それがまぶた、耳たぶ、首と移っていく。
そのたびに私は息を吐くことしかできなくなる。
首筋を舐め上げられると同時に太ももの奥を探られて小さな悲鳴が漏れた。
「……濡れすぎじゃないですか?」
にやりと笑われ、恥ずかしくてしょうがないのに、その恥ずかしささえもが私をたかめてしまう。
「ほら、聞こえる?」
聞こえない振りなんてできない。
慶人くんの指の動きが音だけでもわかってしまうほどに午後の静かな部屋に響く。
「お前、今日休みだっけ?」
手を休めることもなく冷静に問われ、ぼおっとしてきた頭で考える。
「うん……、あっ……」
答えと同時に強く擦られ、息を飲み込む。
「そっか……。」
部屋の時計を見上げながら更に強く中心を指でなぞられた。
「ああっ……」
「しーっ。」
ちょうどそのときドアの外を通る人の声が聞こえ、聞こえちゃうよと耳元でささやかれる。
その声で更に中からあふれるのがわかった。
その様子に、ふふんと笑いながらあいている手がテーブルの上にある携帯に伸びた。
メールを打ち始めるのを見て、つい期待してしまう。
「休もうっかな、遅れて行こうかな。」
私にどうしてほしいか言わせたいのだろう。
「休んじゃえ。」
ちょっとうつむきながら呟いた私の顔を覗き込み、唇が触れる寸前まで顔を寄せられる。
たまらず自分から唇を重ねると小さく笑いながらも応えてくれた。