「お待たせー」
妙にニコニコしながらジョージさんが温野菜のサラダを持ってきた。
「いただきます」
私と慶人くんの声が重なる。
「相変わらず、仲いいねー」
そう言われ、慶人くんがどんな反応をするのか顔色を伺ってしまう。私の視線を感じたのか、こちらにチラッと見てからまたジョージさんに視線を戻した。
「そうっすねー。なんだかんだでけっこう経ちますしね」
「初めて一緒に来たのってどれくらい前だっけ?」
ジョージさんの言葉に私も考える。5年、いや6年になるか?
「僕がazzurroで働いていた頃だから、6年くらい前ですかね」
「あ、そうね。ここは慶人くんに連れてきてもらったんだもんね」
「お前はAndyにいた頃だよな」
慶人くんの言葉にうなづくと、ジョージさんもそうだったと大きくうなづいた。
「最初に慶人が紗月ちゃん連れてきたときは驚いたよ」
笑いながら言うジョージさんの言葉に首を傾げると、
「いや、慶人が女の子連れてくるなんてなかったからさ」
うんうんとまたうなずきながら、いつの間に注いだのか、自分で勝手にビールを飲んでいる。
「あ、俺もビールおかわりください。お前は?」
「うん、私もビール」
あいよー、と軽い返事をよこし鼻歌交じりでなんだかゴキゲンだ。
「あれ、お前ら何歳になったんだけ?」
「28歳ですよ。僕はまだ27歳ですけど」
慶人くんの言葉に苦笑してしまう私とジョージさん。
「お前、早生まれってやつか」
「そうですよー。僕はまだ27歳です」
「紗月ちゃんはもう28歳になったの?」
「はい、なっちゃいました」
別に年齢を重ねることに抵抗はないので、隠すつもりもないから素直に返事する。
「どうよ、もう間もなく30代になる気分は」
「えー、変わりませんよ。毎年1個ずつ増えていくものなんだし」
「またまた、気にしてたりするんじゃないの?」
「……気にしないといけないのでしょうか」
つい真面目に返答してしまった。
「いや、そういうわけじゃないけどさ。やっぱり気にする区切りになる年齢ではあるかなと思って」
「ジョージさん、いいんですよ、気を使わなくて。こいつ、この間なんて29歳になりました、なんて大真面目に間違えてたりしたくらいだし」
「えー。上に間違えるってあるの?」
確かに間違ったけど……。
「だって、もうなんか年齢とかあれーって分からなくなりません?」
「いや、ないから」
今度はジョージさんと慶人くんの声が重なった。
「そういえば聞いた?緑川、結婚するらしいよ」
「atticの?」
慶人くんの問いにジョージさんが満面の笑みで答える。だから今日はこんなに機嫌がよかったのか。
「そう。篠森くんと」
「いや、他にあり得ないでしょう」
「まあな」
ジョージさんと慶人くんの会話をぼーっとしながら聞いていた。
緑川さんと篠森さん……。たまに二人で一緒に私が働いているお店にも顔を出してくれるからどちらのことも知っている。二人とも雰囲気がよく似ていて、温
かい人たちだ。
「紗月ちゃんは何も聞いてなかった?」
「あ、はい。ここ最近はお見かけしてなかったし……」
「そうか。きっと式は呼ばれると思うよ。緑川は家族いないし、内輪でやっちゃうと寂しいって言ってたから」
「……そうんなんですか?」
緑川さんに家族がいないというのは初耳だった。
「ああ、あの子けっこう若い頃に家族亡くして、引き取られた親戚もその後すぐ亡くなってさ。ま、篠森くんと共通の友達多いだろうから、この近辺の飲食店は
当日みんな休みになるな」
「どこでやるんでしょうね」
「さあな。でも午後からにしますーって言ってた」
「それは助かりますね」
「お前らはまだなの?」
ジョージさんの言葉にどう答えたらいいか分からなくて固まってしまった。
「ま、そのうちね」
私の代わりに答えた慶人くんの言葉に驚いて、思わず顔を見つめてしまう。
「違うの?」
そう聞かれてもどう反応したらいいのか分からなかった。
「嫌ならべつにいいんだけど」
慌てて首を横に振ると、ばーかと鼻をつままれて笑われた。
「お前さ、そういうのちゃんと二人きりのときに話せよ。紗月ちゃんびっくりしてるじゃないか」
ジョージさんが呆れ顔で慶人くんに言う。
「いいんですよ。お前は俺の言うことにはいって言ってればいいんだから」
思わずジョージさんと慶人くんの顔を見比べてしまう。からかわれてるんじゃないのかしら。
「返事は?」
そう言った慶人くんはやっぱり優しい顔をしていた。
「……はい」
「よろしい」
「おいおい、紗月ちゃん本当にいいの?」
ジョージさんに確かめられて、今度はちゃんとしっかりはいと答えた。