今までに何人か付き合った人がいた。もちろん、セックスもしたことある。でも、いつも
イヤだった。そりゃ感じることもあるし、濡れるし、気持ちよくなったときもあったけど、でもイヤだった。
結局、3、4回もセックスするとそのイヤさが膨れ上がってきて、すぐ別れてしまった。その人のそばにいることさえもいやになってきてしまって、一緒にい
ることはもう無理だったから。
慶人くんがメールを打つ横顔を見ながらそんなことを思い返してた
特別美形ってわけじゃない。細めのすっとした目が穏やかそうな印象を人に与える。もともと、感情的になることはあまりない。
まあ、昔はかなりやんちゃだったらしいけど。
「見すぎ。」
ふっと笑いながらこちらに目を向けられちょっと焦る。
「……だって。」
「ま、しょうがないか。お前俺のことダイスキだもんな。」
思わず笑いが漏れる。でも、この自信過剰の裏側に自信のない自分を隠しているのを私は知ってる。
出会った頃の慶人くんは、自分で自分のことを女性不振だと
言っていた。
具体的な原因は話してくれなかったけど、しばらくたって知ってしまった。
でも、たぶん私が知っていることは本人は知らない。
「うん。」
そう応えて、慶人くんの頬に唇を寄せた。
「もう一眠りしよう。」
そういって、慶人くんが寝室へ向かう。私も後を追った。
「んー、布団がもう冷たい……。」
恨めしそうな顔で私を見ながら、手がシャツのボタンに伸びてくる。
「温めなさい。」
ボタンが上からひとつずつ外されていく。
こういうときいつもどうしたらいいかわからなくて、されるがままになってしまう。でも、ボタンがひとつ外されるたびに、胸の高鳴りが増していく。
「はい、出来上がり。」
シャツをベッドの外へ放り出し、穿いていたスウェットパンツを脱がし終わると満足そうに頷いた。
横にされ、布団を肩口まで引き寄せると、私を抱き枕のように慶人くんが抱き寄せる。
いつも、当たり前のように腕枕をしてくれるけど、イヤじゃないのかな?
本人に聞いたことはないけど、腕枕を嫌がる男の人って多いってよく耳にする。
でも聞いたら、もうしないよって言われそうだから聞かないでいる。
慶人くんの冷えたつま先が私の足の間に差し込まれた。
「んーっ、冷たいんですけど。」
「お前の足も冷たいけどな。」
そう言いながら、足を抜く様子は全くない。腕枕をしていない右手が私の胸をまた触り始める。
胸の頂を何度も転がされ、また私は呼吸が浅くなってきた。つい慶人くんと反対側の方へ顔を向けると、こっち、と言われ左手で顎を押しやられた。
「もう、顔がとろけそうですよ。」
そういって、口付けられる。
「んふっ」
力の入らなくなった口はあっという間に彼の舌を受け入れる。
何度も差し込まれる舌が、自分の舌を絡めとリ、自分の吐息と彼の吐息、そして舌が絡まる音だけが部屋に響いた。
腰の辺りを強くさすられ、思わず体が仰け反った。
何度も何度も手が腰から背中へと行き来し、息があがってくる。
ベッドに入ってから直接そこに触れられてはいないのに、溢れるものが抑えられない。
「どうしてほしい?」
結局言わせられるんだから、素直に言えばいいものを、やっぱり口にするのは躊躇ってしまう。
「言わないんなら、俺このまま寝るけど。」
普通、男の人って止められないって聞くけど、慶人くんは、たぶん本当に止めて寝るだろう。
本人も口にしていたが、セックスに関してかなり淡白だと思う。セックスに限らず、おそらく人に対しても。
「いいの?」
そう言いながら、私の足の間に差し挟まれた手が、腿の付け根までなで上げえた。体の奥から震える感じが全身に走る。
目の前に体にしがみついて堪えると、その手が更に奥へ進められた。
「はぅっ……」
もうどんな状態かは知られてはいたけど、それでもやはりこの瞬間はいつも緊張するし、恥ずかしくなる。
「ちょっと、すごいんですけど。」
ニヤニヤ笑いながら、私の中心を捕らえた指が、触れるか触れないかの距離を保って、何度も往復する。
その度に更におくから溢れ出てくるものが慶人くんの指に絡みつき、音を立てる。
「あ……」
言葉にならず、ただ浅い呼吸しかできない。
「入れて欲しいの?」
その言葉に小さく頷く。
頷いた私を確認すると、そっとキスをくれた。優しくて、甘くて、体の芯からとろけそうになる。
キスの合間に漏れる互いのため息が熱を帯びて熱い。
何度も繰り返される口付けに眩暈がしそう。ずっと曖昧に触れられていた指が唐突にその中に入った。
「や、あん」
漏れる喘ぎも、慶人くんの舌に絡めとられる。いつの間に体勢を変えていたのか、慶人くんの体が私の足の間に割り入ってた。
膝を折られ、足を広げられると、もう冷静な部分なんてどこにもなくなってしまう。
お腹の奥に彼を感じながら、ただただ、彼を受け入れるだけ。
慶人くんはゆっくりを腰を動かしながら、私の手を握り、口付けを繰り返す。
繋げられるところのすべてが繋がっているこの状態がいつまでも続けばいいのに、なんて馬鹿みたいなことを思った。
続けられる律動が早くなってくる。慶人くんの息も浅く速くなってくる。
時々漏れる、くっという短い声がたまらなく愛しい。
「いっても、いい?」
少し掠れた声でそう聞かれ、私は頷くことしかできない。
律動は加速し、焦燥感にも似た追い詰められるような感覚に溺れていきそうになる。
唐突に体の奥まで貫かれるような気がしたとき、彼が果てた。
軽く息切れしたまま、慶人くんの体が私の上に覆いかぶさる。その重さが心地よい。
そのまま彼の手は私の手から離れ、髪を撫で始めた。
その手の優しさにうっとりする。
耳たぶや首筋に押し当てられる唇からはまだ浅く息が漏れ、くすぐったさが快感とは違う、何かあったかいものを私にくれる。
そして、それはいつものように寝息に変わる。
慶人くんは、いつも果てた後、そのままの状態で眠りにつく。私の中に彼自身を残したまま。
私が少しでも動くと、眠ったまま、強く抱きかかえられる。
その理由はたぶん、彼が女性不振の原因となったことに由来しているのだと思う。
前に寝惚けたまま話してくれたことから察するに、おそらく慶人くんは付き合ってると思っていた女性は、目が覚めたらもうそこにはいなかったのだと思う。
それが何度も体を重ねたことがあったのか、初めて一緒に過ごしたときのことなのかはわからない。
ただそれだけのことで、とも思ったが、たぶん彼にはかなりショックだったのだろう。
だからたぶん彼は女性を信じない。それはきっと今でも。
大丈夫だよ、そんなことしないよという思いが伝わりますようにと、私は寝息を立てる彼の頭を撫でながら、いつの間にか眠りに落ちていった。